前回の記事では、
FIRE後の資産管理ルーティン(見すぎない・放置しすぎない距離感)
について整理した。
ここまでくると、多くの人が一度はこう考える。
物価がどんどん上がったら、FIRE計画って崩れちゃわない?
4%ルールはインフレに耐えられるのか。
円安や値上げラッシュの中でFIREは現実的なのか。
現金や債券はインフレに弱いと言われるけれど、どう対策すればいいのか。
この回では、インフレを「正確に当てる」のではなく、
インフレが来ても折れない設計にする
という視点から整理していく。
結論:インフレは読めない。だからこそ“予測”より「インフレ耐性」を仕込んでおく
長期的には物価はじわじわ上がる前提で考える。
成長資産ゼロはインフレに弱すぎる。
生活費・ポートフォリオ・働き方に「伸び縮みの余白」を持たせておく。
この3つを押さえておくことで、
「インフレが怖いからFIREは無理」から、
「インフレが来ても、調整しながら進めばいい」へ変えていける。
インフレがFIREに与えるインパクト
インフレ(物価上昇)は、FIREに対してざっくり3つ効いてくる。
① 生活費がじわじわ上がる
- 食費・光熱費・サービス料金
- 教育・医療・介護などの長期コスト
「昔はこの金額で余裕だったのに…」という感覚が増える。
② 現金・一部の債券の「実質価値」が目減りする
- 名目金額は同じでも、買えるものが減る
- 定期預金・低利回り債券はインフレ局面で実質マイナスになりやすい
③ 心理的な不安が増える
- 値上げニュースを見るたびに不安になる
- 「このペースで上がったら破綻するのでは?」と感じやすい
だからこそ、インフレを“完璧に読もうとする”よりも、
インフレ前提でも持つ設計をしておく方が現実的だ。
設計レベルでできるインフレ対策
① 最初の“年間生活費”を少し保守的に置く
生活費の前提は、「ミニマム」だけでなく、
「ちょっと余裕を見た現実ライン」を持っておきたい。
- 今すでに物価は上がり気味
- 今後もじわじわ上がる前提で考える
そのため、
- 「現時点の生活費+数%」でシミュレーションする
- 「快適ライン」の方をベースにFIRE資産を設計する
といった“ちょっと保守的”な前提を置いておくと、後々ラクになりやすい。
② 成長資産(株式など)をゼロにしない
インフレに長期的に耐えやすいのは、
- 企業利益とともに伸びやすい株式
- 賃料とともに伸びる期待のある不動産・REIT
一方で、
- 現金
- 低利回りの名目債券
だけで固めると、
「数字は減っていないのに、生活レベルは下がっていく」
状態になりやすい。
FIRE後でも株式比率をある程度残しておくのは、
インフレ耐性の観点からも重要な意味がある。
③ 「インフレに弱い支出」と「そこまで影響を受けない支出」を分ける
生活費の中でも、
- 家賃・光熱費・食費 → 物価の影響が出やすい
- 住宅ローン(固定金利)・一部のサブスク → 名目固定になりやすい
生活費のうち、
インフレに弱い部分の割合がどのくらいか?
をざっくり把握しておくだけでも、
「インフレが来たときにどこを調整するか」が見えやすくなる。
ポートフォリオのインフレ耐性を高める視点
ここでは、マニアックな商品に飛びつくよりも、シンプルな枠組みで考える。
① 株式:インフレを“超える”ことを期待するエンジン
- 長期的には、物価+αで成長することを期待
- 短期ではインフレショック→株価下落も普通にあり得る
短期の揺れは許容しつつ、
長期のインフレ対策として持ち続ける立ち位置になる。
② 債券:インフレには弱いが、ポートフォリオの安定剤
- 名目利回りが低いほど、インフレ局面では実質マイナスになりやすい
- それでも「株式がガクッと下がったときのクッション」として機能
インフレ対策そのものではないが、
取り崩し時の「心の安定」を支える役割は大きい。
③ 現金:インフレには最弱だが、「安心」と「時間」を買う
生活費数年分の現金は、インフレには弱いがメンタルには強い。
- 暴落&インフレ局面でも、今すぐ株を売らなくていい
- 「回復を待つ時間」を買える
インフレとメンタルのバランスを取る意味で、
少なくしすぎない方がいい現金もある。
④ インフレ連動債・REITなどは“スパイス”として検討
- インフレ連動債:物価連動を狙えるが、まだややニッチ
- REIT:賃料や不動産価格の上昇とともに伸びる期待。ただしボラティリティもある
これらをメインにする必要はないが、
全体の一部を「インフレにやや強い資産」で持つ
という発想はアリだ。
生活サイドの“インフレ耐性”を高める
インフレ対策=金融商品だけではない。
① インフレの影響を受けやすい生活構造を減らす
- 家賃依存が高い → 場所の自由を使ってコストの低い地域を検討
- 外食・コンビニ依存 → 自炊・まとめ買いといった選択肢も持っておく
「常に節約しろ」という話ではなく、
物価が急に上がったときに「ギアを1段落とせる」選択肢を持っておく
イメージに近い。
② 軽く働ける“インフレ耐性スイッチ”を持っておく
インフレが長引くときに効いてくるのが、
- ゆるく働けるスキル
- すぐに増やせる副業ライン
「必要になったら月3〜5万円くらい稼げる」という状態は、
インフレ対策としてもかなり強い。
③ 「インフレが●年続いたらこうする」というマイルール
- 生活費が想定より●%以上増えたら → 生活費の内訳を見直す
- インフレ率が数年高止まりしたら → 取り崩し率を0.5ポイント下げて様子を見る
- 物価上昇が続いたら → 軽く仕事を増やす/新しい収入源を試す
インフレが一定ラインを超えたら「自動的にそうする」と決めておくだけでも、
そのときの不安はかなり和らぐ。
メンタル面:インフレ=計画失敗、と決めつけない
インフレ局面でやりがちなのは、
「想定より物価が上がった=プランが崩れた=FIRE失敗」
と短絡的に捉えてしまうこと。
現実には、
- 誰もインフレの正確な値は当てられない
- 経済環境に合わせて「微調整しながら進む」のが普通
- プランが一度も変わらないFIREの方がむしろ不自然
だから、インフレが計画よりきつくなってきたときは、
チェックリスト的にこう考えてみる。
- 生活費の構造を見直す余地はあるか?
- 取り崩しペース(%)を少し抑える余地はあるか?
- 軽く働く・副収入を増やす余地はあるか?
- それでも厳しければ、ライフプラン自体の再設計を検討するか?
「全部インフレを完璧に埋め合わせる」必要はない。
それよりも、
少しずつ調整しながら、全体として破綻しないラインを守る
くらいの感覚の方が、長期戦には向いている。
僕の感覚
インフレは「敵」でもあるけれど、
同時に「計画を硬直させないための刺激」でもある。
物価が動くからこそ、生活をアップデートする。
インフレがあるからこそ、成長資産を持つ意味がある。
変化があるからこそ、「伸び縮みできる人生設計」が生きてくる。
FIREの本質は、
「変化しない世界で生きる」ことではなく、
「変化しても折れない構造を作ること」。
インフレもその一部。
読もうとしすぎず、
耐性と選択肢を増やすきっかけにしてしまえばいい。
まとめ
- インフレはFIREにとって「生活費・資産・メンタル」にじわじわ効いてくる
- 予測するより「インフレ耐性を持つ設計」に集中する
- 成長資産をゼロにせず、現金・債券とのバランスを取る
- 生活構造・住む場所・働き方に「ギアを落とせる余地」を持たせる
- インフレで計画が少しズレるのは前提。微調整しながら進めばいい
次回は、「FIREと為替・通貨リスク」をテーマに、
円安・円高がFIREプランに与える影響や、
外貨建て資産・海外ETFとの付き合い方を整理していく予定。
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